ハイドロゲル直腸スペーサー(Space OAR)注入術および
ゴールドマーカー留置について
術式 | ハイドロゲル直腸スペーサー注入術、ゴールドマーカー 留置術 |
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麻酔 | 局所麻酔(1%キシロカイン)+仙骨ブロック麻酔 |
目的 | 前立腺がんに対する放射線治療による副作用軽減目的 |
<前立腺がんの放射線治療>
前立腺がんの放射線治療には、内照射(密封小線源治療・シード治療ともいいます)と外部照射があります。
放射線治療は、高い線量を前立腺に投与できれば前立腺がんの治療成績は上がります。
そして近年では照射機器やコンピュータ技術の急速な発展によって従来投与できなかったような高い線量の投与が可能になりました。
しかし一方で、がんのある前立腺だけに完全に限定して照射することはできず、周囲にある直腸、尿道、膀胱といった隣接臓器の一部にも放射線がかかってしまいます。
<ハイドロゲル直腸スペーサーの役割と性質>
ハイドロゲル直腸スペーサーは、前立腺への放射線治療で直腸にも照射がおよぶことで発生する有害事象(下痢、頻便、出血など)を低減することを目的に使用します。
前立腺と直腸の間に注入し、本来前立腺と隣接している直腸を、1cmほど離すことができます。
ハイドロゲル直腸スペーサーは、主にポリエチレングリコールからなり、細胞の障害性や、刺激性、過敏性はありません。
<ゴールドマーカー留置>
放射線治療を行うにあたり、正確な照射は重要です。
実際の照射では、前立腺が体外からみえないため照射範囲がずれてします可能性があります。
照射がずれた場合、効果が減弱するリスクまた、副作用が増加するリスクがあります。
それを予防する目的で、放射線治療施行時の位置合わせの目印として前立腺の前後にゴールドマーカーを挿入留置します。
このゴールドマーカーは、体内に永久的に留置されますが、人体への悪影響はないとされていますのでご安心ください。
<麻酔の方法>
経会陰的(股の部分の皮膚)に局所麻酔をして施行します。
(注:皮膚からの針の穿刺の痛みはほぼ消失しますが、経直腸エコーを挿入する違和感、痛みを感じる場合があります。特に肛門が狭い患者さんは、本手技が施行できない場合がある点はご了承ください。)
<手術方法について>
会陰部(肛門から1-2cm上の股の部分)から前立腺と直腸の間に針を挿入します。
まず、ゴールドマーカーを留置します。その後、その針から、液体のハイドロゲル直腸スペーサーを注入します。
注入後にゲル状になり、約3カ月間その状態を維持することで前立腺と直腸の間の距離を離したまま保ちます。
その後、ゲルは分解吸収され消滅します。下記をご参照ください。
<合併症について>
- 疼痛、血尿、血便、血精液症(精液に血が混じること)、感染、アレルギー、肛門部の不快感などが報告されていますが、非常に軽度のものを含めても10%以下とされています。
① 出血
会陰部(肛門と陰嚢の間)から針を穿刺するため、出血する場合がありますが通常は一過性です。
万が一、帰宅後、出血がある、血がにじむ場合は約5分から10分程度圧迫してください。
また、前立腺・直腸周囲に出血する場合があります。この場合は、皮膚の色がしばらく暗赤色となりますが、約2~4週間で消失しますのでご安心ください。
② 違和感・痛み
処置後、違和感や痛みを感じることがありますが通常は数日で消失します。
ごくまれに数か月間続く場合があります。放射線治療も開始となるためその影響でこうした違和感が出ることもあります。
③ 感染症
処置に伴い、発熱や前立腺およびその周囲に感染を起こす場合があります。通常術前から抗生剤を内服し予防します。
万が一、治療後に高い熱が継続する場合は、指定の医療機関にご入院していただく必要性がある場合があります。
④ アレルギー症状
ごく稀ですが、ハイドロゲルや金マーカーまた麻酔薬等によるのアレルギー症状がでることがあります。
⑤ その他
その他予期せぬ合併症が生じるリスクはあります。適宜適切な対応を行います。
<この治療以外の方法>
このハイドロゲル直腸スペーサーを使用せずに放射線治療を受けることも可能です。
使用しなくても、直腸、尿道、膀胱などの隣接臓器への照射線量の抑制には留意しています。
しかし、使用しない場合は特に直腸への照射線量は使用時よりも高くなることが予想されます。
当日の流れについて
- ① 12時にご来院いただきます。
- ② 日帰り手術室に入室していただきお着替えをしていただきます。
- ③ 手術台の上で、砕石位(お産のような体位)をとらせていただきます。
- ④ 肛門および尿道に粘膜麻酔薬を注入いたします。
- ⑤ 肛門から経直腸エコーを挿入します。
- ⑥ 会陰部、消毒後、専用の針を穿刺します。局所麻酔(+仙骨ブロック)を行います。
- ⑦ ゴールドマーカーを挿入します。
- ⑧ ハイドロゲルを注入します。
- ⑨ 少しお休みいただき、会計後、ご帰宅となります。
(14時には帰宅となります。開始時間が変更となることがあります。詳しくは受診時にご相談ください。)
処置当日までの注意事項
- ① 血液がサラサラになる薬(抗凝固薬および抗血小板薬)を内服している患者さんは、こうした薬剤を中断する必要性があります。こうした薬剤を処方している主治医に確認をお願いします。
(注意:中断のリスクが高い場合は、当院での日帰りでの挿入手技は施行出来ませんのでご注意ください。) - ② 前日夜に、処方されている下剤を内服してください。当日は、排便を済ませてから受診をお願いします。(日頃から便秘気味の患者さんは事前にご相談ください。)
- ③ 前日および当日の体温測定をお願いします。37.5度以上の発熱がある場合は、本手技は施行出来ません。一度、近医発熱外来の受診をお願いします。
(当院では、発熱外来対応はしておりませんので、発熱時は直接受診しないようにお願いいたします。) - ④ 食事は当日、朝9時までとしてください。飲水は、当日12時からは控えてください。
- ⑤ 体調不良時も当日、処置ができないと判断する場合があります。ご了承ください。
何か当日ご不明な点がある場合は、専用の電話にご連絡ください。
処置後の注意事項
- 数日間(3-5日)は、飲酒や激しい運動は控えてください。
- 処置当日はシャワーのみとしてください。翌日以降、問題なければ入浴はOKですが、長風呂、サウナ、温泉などは約1週間はお控えください。
- 当日、帰宅後の食事は問題ありません。
- 針刺入部(会陰部)がくろっぼくなることがあります。