前立腺がん治療(手術・放射線治療)後の
ED(勃起不全)
① 全摘手術後のED(勃起不全)なぜ起こるのか?
前立腺がんの根治治療として手術療法があります。
手術療法後の合併症のひとつにED(勃起不全)があります。なぜ起こるのか?
勃起に関係するメインの神経は、前立腺の後側方に走行しています。
上の図は、前立腺の断面のイメージです。
神経は、後側方に走行していますが、1本ではなく、何本もの神経が、動脈や静脈などの血管と伴走して陰茎へ向かいます。
全摘手術では、この部位を一緒に摘除することも多いです。
この部分の組織を切除すると結果として神経が切断されるためED(勃起不全)となります。
左右に走行しており、がんの部位によっては片側の神経温存のみをすることもあります。
神経の切断、切除によりEDが起こるんですね。
② 全摘治療後のED治療について
全摘後のEDですが神経温存を行っているかいないかで変わる場合があります。
神経温存手技を行うと、両側温存で約70%前後、片側温存で約30-40%前後の勃起機能の維持が可能です。
しかし、この機能も本当に性交渉が可能なレベルかどうかは、その評価方法によって変わる点はご注意ください。
下記、術後の状況に応じてのED治療を考えてみたいと思います。
1)治療前と比較して勃起力回復が約70%以上の患者さん
治療後、1年ぐらいまでは、神経温存を行った場合、勃起機能が回復する可能性があります。
ほぼ手術前と変わらないぐらい回復する場合は、通常特別な治療は必要ありません。
70%前後ですと、ある程度回復しているが十分でないという状態でしょうか。
この場合、まず勃起を促すことにより回復していく可能性があります。
特に術後1年以内は改善が期待できるとされています。定期的に刺激を行うことをお勧めします。
必要時は、ED治療薬(バイアグラ・シアリスなど)を使用することで性交渉が可能となることもあります。
ただし、ED治療薬は、一部の持病などで使用できない場合があります。
ほかの薬を内服している場合は、適宜ご確認ください。
海外では、術後のEDリハビリテーションとして、シアリスなどの長期作用型(シアリスは約24時間から36時間、効果があるとされています)のED薬を週に数回使用してEDを促すことを術後勧める場合があります。
いくつかのランダム化試験も行われていますが現時点で十分なエビデンスはありません。(Front Surg. 2021 Mar 2;8:636974)
実際行うことで回復する患者さんもいらっしゃいます。
なかなか、手術の状況、がんの状況、もともとの性機能・性アクティビティーの状況など個人差があるので評価が難しいところです。
お気軽にご相談ください。
2)勃起力回復が0-約70%程度の患者さん
勃起力の回復が十分でない患者さん、実は、手術後、意欲(性欲)も低下していることも多いです。
機能があることが、男性としての活力となっている方も多くそのケアは重要と考えます。
ここで一つ追加ですが、たまに患者さんからこんな質問をうけます。
「前立腺を手術で取ってしまうと男性ホルモンが低下して、女性みたいになっちゃうんですか?」
よく聞く質問です。答えは×です。
男性ホルモンは、副腎と精巣で作られます。
前立腺は、その男性ホルモンのレセプターがある臓器です。
つまり受け手側の組織なので、直接男性ホルモンが低下することはありません。
つまり、手術で前立腺を摘除したことで男性ホルモンが足りてないわけではありません。(ただし、更年期として男性ホルモンが低下していることもあります)
術後で男性機能の低下が0-70%前後の場合、下記のような治療オプションがあります。
- 必要時、ED薬のトライ
- リハビリ、勃起を促すなど
- ペニスポンプ(陰圧式勃起補助器具)の使用
(日本で医療器具として厚生労働省の使用認可がおりているものは、アメリカのベトコ社製の手動式ポンプ「ベトコ」、日本のツムラ社製の電動式ポンプ「リテント」、日本の三井ヘルス社製の手動式ポンプ「カンキ」の3種類のみです。医療器具としてではないものも多数存在しています。専門の医師にご相談ください。 - 海綿体自己注射
陰茎海綿体に血管拡張薬(プロスタグランジンE1)を患者さん自身で指導を受けた後に自己注射して、勃起を起こさせます。これにより性行為が可能です。通常は使用量が適切であれば5分から15分で勃起がおこり、30分から1時間ほど持続します。ただし、治療は保険適用がありません。 - その他
術後不安、性機能低下に伴うストレスも多いと思います。お気軽に、ご相談ください。
③ 放射線治療後のEDについて
放射線治療は、通常、治療直後のEDが少ないとされています。
最近の放射線治療は、周囲への影響をより低く出来るようになってきています。
しかし、放射線治療も時間の経過とともに勃起機能が低下することが多いです。(N Engl J Med 2016; 375:1425-1437, JAMA. 2017;317(11):1126-1140)
もともとの対象によってもかわりますが、そもそも放射線治療を選択する患者さんは年齢が高い傾向があることや放射線治療でホルモン治療を併用することが多いことなども影響します。(ホルモン注射を併用すると効果がある期間、EDとなります)
勃起が弱い場合は、ED薬をトライするオプションがあります。そのほかも前述(②全摘治療後のED治療について)の治療オプションもあります。
放射線治療後も適宜、お気軽にご相談ください。